「エンダウメント」とは寄付金によって設立された米国の一流大学が運営する基金です。
大学の運営費用や研究費などもエンダウメントから拠出されています。
エンダウメントは卒業生等からの寄付を寝かしておくという愚かなことはしません。集めた資金を運用して着実に増やしていっているのです。
エンダウメントは国際分散投資を行い堅実なリターンを長期的に出しており資産運用のお手本的な扱いを受けています。
本日は代表的なエンダウメントであるハーバード大とイェール大について紹介しながら、
安全に長期的に資産を形成していくための資産分散の仕方についてお伝えしていきたいと思います。
ハーバード大学のエンダウメントの運用実績とポートフォリオ
それでは、まずはハーバード大学のポートフォリオについて見ていきましょう。2021年現在で運用資産残高は$419億(約4.5兆円)と巨額になっています。
長期的に平均リターンは10%を超えている
まずはハーバード大学のエンダウメントのリターンについて見ていきましょう。2016年のレポートに過去20年間の平均リターンが記載されていました。
以下をご覧いただければわかりますが、1997年から2016年のリターンは10.4%ということですね。ITバブルやリーマンショックを経験してこのリターンは素晴らしいですね。
2017年以降のリターンも各年度のレポートから拾ってきた値が以下となります。
年度 | リターン |
2017年 | 8.10% |
2018年 | 10.00% |
2019年 | 6.50% |
2020年 | 7.30% |
2021年 | 34.00% |
なによりも、安定したリターンを出しているのは素晴らしいですね。
オルタナティブ投資が70%を占めるポートフォリオ
ではハーバードエンダウメントのポートフォリオについて見てみましょう。
資産クラス | 比率 |
上場株 | 14% |
未公開株 | 34% |
ヘッジファンド | 33% |
不動産 | 5% |
商品(金等) | 1% |
債券 | 4% |
その他 | 1% |
現金等 | 8% |
皆さんが株と普段考えている上場株式への投資は全体の20%未満に抑えられています。
代わりに株や債券とは異なる値動きをすることで注目されているオルタナティブ投資に大きなウェイトを占めています。
オルタナティブ投資をふんだんに組み入れることでポートフォリオの安定性を高めた上で高いリターンを狙う構図であるということがわかりますね。
特に未公開株に投資をするPEファンドと絶対収益を狙うヘッジファンドだけで全体の60%を占めておりポートフォリオの中核を占めていますね。
ヘッジファンドは普通のファンドと異なり、如何なる市場環境であってもリターンを出すことが求められます。リーマンショックやコロナショックのような環境でも利益獲得を行うことを期待されているファンドです。
実際、以下のように市場下落局面でも安定的に推移をして市場平均を凌駕して推移しています。
ヘッジファンドについては以下で詳しく解説していますので参考にしていただければと思います。
イェール大学のエンダウメントの運用実績とポートフォリオ
次にイェール大学のエンダウメントについてみていきましょう。ハーバード大学ほど知名度はないものの実は超一流大学です。
ハーバード大学は2021年版の世界大学ランキングで3位でしたが、イェール大学は8位とTop10にランクインしています。因みに1位はオックスフォードとなっています。
他の大学を大きく上回るパフォーマンスを上げています。
長期リターンはハーバードエンダウメントのリターンを超えている
イェール大学は過去30年間の平均リターンは12.6%となっています。S&P500指数の長期リターンが10%であることを考えると長期で株式をオーバーパフォームしていることになります。
株式60%、債券40%のリターンが8.7%であることを考えると平均して1.5倍のパフォーマンスを上げています。
For the thirty years ending June 30, 2019, Yale’s portfolio generated an annualized return of 12.6% with a standard deviation of 6.8%. Over the same period, the undiversified institutional standard of 60% stocks and 40% bonds produced an annualized return of 8.7% with a standard deviation of 9.0%.
さらに重要なのは投資におけるリスクである標準偏差(standard deviation)が6.8%と非常に低いことです。ちなみにS&P500指数では12%ほどあります。
→ 投資におけるリスクとは?統計学的に標準偏差を図解で理解してシャープレシオの高い投資を実践しよう!
30年間のリターンが12.6%で標準偏差が6.8%の場合、今後1年に想定されるリスクは以下となります。
【68.3%の確率】
5.8%(=12.6%-6.8%) 〜 19.4%(=12.6%+6.8%)
【95.4%の確率】
▲1%(=12.6%-6.8%×2) 〜 26.2%(=12.6%+6.8%×2)
【99.7%の確率】
▲7.8%(=12.6%-6.8%×3) 〜 33%(=12.6%+6.8%×3)
最大想定される損失でも▲7.8%となっていることを考えると、安全な運用をしながら高いリターンを出しているといえます。
イェール大のポートフォリオもオルタナティブ投資が中心の構成
2024年時点のポートフォリオについては不明ですが2022年時点でのイェール大学のポートフォリオは以下となります。
資産クラス | 比率 |
Absolute Return(ヘッジファンド) | 26.0% |
VC(ベンチャーキャピタル) | 18.0% |
exUS(米国以外の株) | 15.5% |
US Equity(米国株) | 3.0% |
LBO(PEファンド) | 15.0% |
Real Estate(不動産) | 9.5% |
Natural Resources(天然資源) | 6.5% |
Bonds(債券) | 5.0% |
Casu(現金) | 1.5% |
赤色にしているのがオルタナティブ資産です。
オルタナティブ投資が75%をしめています。イェール大学のポートフォリオの推移ですが1990年代から一貫してオルタナティブ投資の比率が高まり続けていますね。
以下図の「Leveraged Buyout(PEファンド)」「Venture Capital(ベンチャーキャピタル)」「Natural Resources(化石燃料)」「Real Estate(不動産)」「Absolute Return(ヘッジファンド))」がオルタナティブ資産です。
ハーバード大学とイェール大学の共通点としてはオルタナティブ投資を非常に多くのポーションで組み入れているということがいえます。
エンダウメント流のポートフォリオ組成法
エンダウメントのように安定して高いリターンをだすためにはオルタナティブ投資を組み入れる必要があることをご理解いただけたかと思います。
では実際に現実的にエンダウメント龍にポートフォリオを組む場合のポートフォリオは以下となります。
構成比率 | |
全世界株(VT) | 40% |
ヘッジファンド(BMキャピタル) | 50% |
金(GLD) | 10% |
全世界株式に連動するVTに40%
まずは伝統的な資産として全世界株に連動する投資信託である「eMAXIS Slim 全世界株式」に投資を行います。
同投資信託は全世界の時価総額に応じて国別に投資を行なっているバンガード社のETFであるVTに連動するよう組成されています。
VTは全世界の株式全体の動きと考えていただければと思います。VTはFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスへの連動を目標としています。
運用を開始した2009年からの11年間は市場が堅調だったこともありリターンは年率11%となっています。
2000年からの世界株のリターンは5%-6%となっています。長期的にみたら安定的なリターンといえますが、度々大きな暴落を経験するのが欠点ですね。
column:債券を組み入れない理由
先ほどんポートフォリオを見てなぜ債券がないのか疑問に思われた方もいらっしゃると思います。
理由は簡単で2021年時点でコロナショックによって金利は既に下限に近づいているからです。
FRBの利下げによって先進国最高の金利水準であった米国でさえ10年債金利が下限に近づいています。
債券の価格は金利が下落すると上昇します。既に下落余地がない債券に投資するのは現時点では危険な選択肢なのです。
ですので、債券ではなく次で紹介するオルタナティブ投資でポートフォリオのリターンと安定性を高めていきます。
→ 国債や社債といった債券投資はおすすめできる?金融環境をふまえてETFや債券投資信託を含めて検証する!
ヘッジファンド「BMキャピタル」に50%
次に最も重要な核をしめるオルタナティブ投資のポーションとしてヘッジファンドへ投資をします。
ヘッジファンドは機関投資家や富裕層のみが投資していると思われがちですが、日本人の個人投資家が投資することができるヘッジファンドも存在しています。それが筆者も2013年から投資しているBMキャピタルです。
BMキャピタルは本格的なバリュー投資を実践して下落相場でも資産を守り着実に運用しているヘッジファンドです。
実際、運用開始した2012年以降年ベースで1度もマイナスの成績をだしたことがなく、年率10%以上の成績を出し続けています。運用開始から度々訪れる以下の下落相場を完璧にマネージしているのは感嘆といえます。
まさにポートフォリオの安定性を高めながらリターンを出す理想のファンドといえますね。ファンドマネージャーも東大卒外資系金融出身というピカピカの経歴で非常に期待がもてるファンドとなっています。
以下でBMキャピタルについては投資手法を含めて詳しくお伝えしていますので参考にしていただければと思います。
金ETFのGLDに10%
残りのポーションは同じくオルタナティブ投資であるコモディティに投資を行います。
特にコモディティの中でも最もよく使用されている金に投資をします。投資対象はいつでも売買可能なETFであるGLDに投資をします。楽天証券等で取引できます。
現金は市場に流通している総量によって価値が増減しますが、金は金のままであり続けます。現金の流通総量が増加すれば価値が希釈して金が相対的に上昇するということです。
以下は米国のマネーサプライです。一貫して上昇してますが、コロナショッックによって増加幅が上昇していますね。
以下はマネーサプライと金の推移ですが、必ずしも連動はしていませんが概ねマネーサプライの増加と連動していますね。
またしっかりとオルタナティブ投資としての役割も果たしています。以下は株と金の値動きの比較です。
黄:金
灰:銀
赤:S&P500
青:ダウ平均
リーマンショックやコロナショックは金を組み入れておくことで大分下落幅は抑制されそうですね。
まとめ
本日のポイントをまとめると以下となります。
- エンダウメントは安定して高いリターンを出している
- 安定性と高リターンの源泉はオルタナティブ投資にあり
- 個人でもオルタナティブ投資を組み入れて安全に高いリターンを追求しよう