2023年以降、高配当株である日本郵船と商船三井に注目が集まっています。
なぜ注目されているかというと、以下の通り非常に配当利回りが高く、投資家が殺到しているからです。しかし、筆者は非常にこの動向を懐疑的に見ています。
順位 | 名称・コード・市場 | 配当利回り | 決算年月 | 1株配当 |
1 | (株)商船三井 | 17.38% | 2023年3月 | 550 |
2 | 日本郵船(株) | 16.85% | 2023年3月 | 510 |
3 | NSユナイテッド海運(株) | 8.84% | 2023年3月 | 340 |
4 | 乾汽船(株) | 8.69% | 2023年3月 | 173 |
5 | 三井松島ホールディングス(株) | 8.40% | 2023年3月 | 270 |
6 | 川崎汽船(株) | 7.47% | 2023年3月 | 200 |
7 | エスコンジャパンリート投資法人 | 7.23% | 2023年4月 | 6,048.00 |
8 | 石油資源開発(株) | 7.13% | 2023年3月 | 285 |
9 | JT | 7.10% | 2022年12月 | 188 |
10 | 西松建設(株) | 7.08% | 2023年3月 | 300 |
先日、三菱モルガン証券が以下の通り日本郵船と商船三井のレートを下げましたが、これは当然だと思います。最上位のオーバーウェイトから最下位のアンダーウェートになったとのことですが、アナリストが上司に怒られたのでしょうか?遅すぎると思います。
【目標株価】
- 日本郵船・・・2500円(2023年1月30日時点:3021円)
- 商船三井・・・2200円(2023年1月30日時点:3160円)
郵船が続落している。一時、前日比138円(4.4%)安の3027円を付けた。モルガン・スタンレーMUFG証券が26日付で投資判断を3段階で最上位の「オーバーウエート」から最下位の「アンダーウエート」に2段階引き下げたことを材料視した売りが膨らんでいる。目標株価は26日終値より21%安い2500円(従来は6500円)に引き下げた。
商船三井(9104)も大幅に続落している。モルガンMUFGは同じく投資判断を「オーバーウエート」から「アンダーウエート」に2段階引き下げた。目標株価は26日終値より33%安い2200円(従来は6100円)に修正した。海運株の業界投資判断を3段階で最上位の「アトラクティブ」から最下位「コーシャス」に引き下げた。
今回はそもそもなぜ日本郵船と商船三井の配当利回りはここまで高くなっているのかと、今後の見通しについて書いていきたいと思います。
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日本郵船と商船三井の概要と直近株価動向
日本郵船
日本郵船といえば、日本が誇る海運大手です。まさに物流を止めないことが仕事です。
事業領域は海上だけではなく、航空も担っています。ライナーとは定期船のことです。地味に不動産でも資産運用を行っているみたいですね。
まさに総合物流サービス業です。世界中のモノが動けば動くほど、需要が強くなればなるほど利益が大きくなる非常にわかりやすい業態でもあります。
資本コスト(船舶リース)、操業コスト(人件費、)が主な費用であり、長年のノウハウ、優秀な人材がオペレーションを担っておりコストは限定的で、モノが動けば動くほど売上に応じてレバレッジが効く業態となっています。
日本郵船といえば旧三菱財閥の中核企業であり、岩崎弥太郎氏が設立した九十九商会(三菱商会)の定期船事業だったのですよね。非常に歴史ある会社で、1875年より郵便汽船三菱会社としてスタートし、すでに148年が経過しています。伝統ある海運会社です。
現在はどのような規模かというと、連結売上高2.2兆円、グループ会社従業員数は3.5万人、海外展開国数57カ国、658隻の運航船舶数を誇っています。世界でも有数の海運会社です。
日本郵船の平均年収は1000万円超えであり、就活生からも大人気の就職先です。岩崎弥太郎が築き上げた財閥グループ企業は今でも健在です。
日本郵船株式会社が有価証券報告書で公表している最新の平均年収(給与)は1082万円。過去5期分の平均年収は980万円。
直近株価は以下の通りとなっています。とんでもない上昇になっていますね。前回はリーマンショック前までの好景気で上昇し、その後大暴落しました。完全に景気敏感株ですね。
今回も同様に世界経済がCovid19騒動よりV字回復し、景気加熱した結果、大幅な株価上昇となりました。
ウクライナ戦争やサプライチェーンの乱れなども、海上輸送運賃に多大なる影響を与え、海運業界は10年に一度、もう来ないかもしれないほどのバブルに突入しました。当然米国やギリシャの海運企業も同様に株価は大幅に上昇しました。
ダナオスやスターバルクの株価を見るに、もうすでにバブルは終わり下落に転じていますね。ほぼ半値です。
日本郵船はまだその下落の始まりでしょう。本番はこれからです。日銀の金融緩和解除と世界不況到来を考えると、米国株に上場している海運株よりもひどいことになるかもしれません。答え合わせはこれからです。
商船三井
続いて商船三井です。海運業界は物流の泥臭い現場ですが、ホームページは非常にスマートですね。これがブランディングというものでしょうか。採用が捗るのだと思います。入社したらアイアンマンだらけで膝から崩れ落ちるのではないでしょうか。
商船三井の事業領域は以下の通りとなっています。日本郵船は航空もありましたが、商船三井は船特化型ですね。
事業モデルは日本郵船とほぼ同様かと思います。モノが動けば動くほど利益が上がる、本流はシンプルです。
商船三井といえば、三井の名前が入っていますので当然三井財閥企業ですね。創業から130年となっています。1878年に三井物産、鉄製蒸気船「秀吉丸」で三池炭の海外輸送(口之津-上海間)を開始しました。
グループ会社従業員数は8,547名、運航船舶規模は698隻となっています。社員数は日本郵船の1/4程度ですが、船隻数は商船三井が上回っているのですね。
直近の商船三井の株価は以下の通りです。日本郵船でほぼ同じ形ですね。株価は一緒に上昇しますし、一緒に下落します。それが景気敏感株です。
日本郵船と商船三井の配当金はいつ分配?過去の配当推移、配当性向も
日本郵船の配当金は3月30日、中間配当は9月30日が基準日となっています。この日まで株を保有していれば、出資分に応じて分配がなされます。
過去の配当金の推移は以下となっており、現在は配当性向は29.4%となっています。2021年と2022年が急増していますね。
2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度(予想) | |
配当金(通年) | ¥13 | ¥67 | ¥483 | ¥520 | ¥130 |
配当金総額(百万円) | ¥6,782 | ¥33,911 | ¥245,845 | ¥264,489 | ¥- |
連結当期純利益(百万円) | ¥31,129 | ¥139,228 | ¥1,009,105 | ¥1,012,523 | ¥220,000 |
連結配当性向(%) | 21.70% | 24.30% | 24.30% | 26.10% | 29.40% |
配当利回り推移は以下です。
日本郵船/期 | 配当利回り |
2010年3月 | 1.08% |
2011年3月 | 3.38% |
2012年3月 | 1.54% |
2013年3月 | 2% |
2014年3月 | 1.67% |
2015年3月 | 2.02% |
2016年3月 | 2.76% |
2017年3月 | 0.00% |
2018年3月 | 1.40% |
2019年3月 | 1.23% |
2020年3月 | 3.11% |
2021年3月 | 5.30% |
2022年3月 | 13.48% |
2023年3月 | 16.83% |
商船三井の配当金も日本郵船と同様、3月30日、中間配当は9月30日が基準日となっています。この日まで株を保有していれば、出資分に応じて分配がなされます。
過去の配当金の推移は以下となっており、現在は配当性向は25%となっています。やはり2021年と2022年が急増していますね。2023年は当然のごとく調整されています。
配当利回りの推移は以下の通りとなっています。やはり最後の2年が如何に特殊であるかがわかると思います。
商船三井/期 | 配当利回り |
2010年3月 | 0.45% |
2011年3月 | 2.09% |
2012年3月 | 1.39% |
2013年3月 | 0% |
2014年3月 | 1.24% |
2015年3月 | 1.72% |
2016年3月 | 2.18% |
2017年3月 | 0.57% |
2018年3月 | 0.65% |
2019年3月 | 1.89% |
2020年3月 | 3.72% |
2021年3月 | 3.87% |
2022年3月 | 11.70% |
2023年3月 | 17.38% |
なぜ高配当?異次元に高い利益が源泉!
最初に言っておくと、高配当の理由は両社共に異次元な利益を叩き出したからです。一生分くらい稼いだのではないでしょうか?
コロナによる経済低迷から、世界中の低金利政策、キャッシュばら撒き政策で世界経済はV字回復しました。景気が一直線に良くなった勢いで海運会社も大きな収益を獲得しました。(米国、欧州でインフレが止まらなくなってしまうくらいの経済加速、デフレ国家の日本の輸入物価も急上昇)
また、他要因としては巣篭もりによるインターネットショッピングのバブル、ウクライナ戦争でのさらなる資源バブルが追い風となりました。
さて、両社の業績を見てみたいと思います。まず最初に理解しておきたいのが、景気敏感株の株価は景気が良くなるタイミングで上昇し、景気が悪くなるタイミングで下落を開始します。非常にシンプルであり、この景気を読む力が求められます。
基本的には世界中に物資を運んでいるので、世界経済に最も影響力のある米国経済の動向を見る必要があります。しかし、海運業に関しては、この経済指標よりも、海上輸送運賃の動向が今後の経済動向の先行指標になります。
不況とは気づけば訪れているもので、その入り口は中々気づきにくいです。しかし、世界中のモノの動きが鈍くなれば、それは不況を暗示しているのです。人々の消費が落ちているわけですからね。
分析の順番はいろいろありますが、筆者は海上輸送運賃→米国経済(主に長期金利)→業績の順でみていきます。
まずは海上輸送運賃ですが、これはインデックスが存在します。世界中で思い切り下落しているのがわかります。経済は鈍化しています。
過去の動きが激しいので少しわかりにくいですが、これはドライバルク(バラ積み船)も同じ動きです。
さて、米国の長期金利の動向を見てみましょう。頭打ちしていますね。米国の投資家も今後の不況を織り込み始めています。インフレ率も鈍化しているので、ここからどこまで深い不況になるかどうかが今は議論されています。
そして業績に移っていきましょう。
日本郵船の業績
(単位:億円) | 2020年度 | 2021年度 | 前年同期比 | 2022年度(実績) | 前年同期比 | 2023年度(予想) | 前年同期比 |
売上高 | 16,084 | 22,807 | 42% | 26,160 | 15% | 22,800 | -13% |
営業利益 | 715 | 2,689 | 276% | 2,963 | 10% | 1,650 | -44% |
経常利益 | 2,153 | 10,031 | 366% | 11,097 | 11% | 2,350 | -79% |
親会社株主に帰属する当期純利益 | 1,392 | 10,091 | 625% | 10,125 | 0% | 2,200 | -78% |
引用元:業績ハイライト
2021年度の純利益が+625%で大幅増益、2022年度は同じ規模の売上と利益を横ばいで終えました。2023年度は流石に失速です。限界があります。
配当性向も普段は20%のところを25%とし、さらに利益が普段の7倍以上となっているため、高配当になるのは当然ですよね。
日本郵船が高配当な理由はとにかくこの利益です。売上高の伸びに応じてレバレッジが効き、まさにバブルとも言える利益を叩き出しました。
商船三井の業績
(単位:億円) | 2019年度 | 2020年度 | 前年同期比(%) | 2021年度 | 前年同期比(%) | 2022年度 | 前年同期比(%) | 2023年度(通期見通し) | 前年同期比(%) |
売上高 | 11,554 | 9,914 | -14% | 12,693 | 28% | 16,119 | 27% | 15900 | -1% |
営業利益 | 397 | 1,276 | 221% | 7,123 | 458% | 7,771 | 9% | 1700 | -78% |
経常利益 | 550 | 1,336 | 143% | 7,217 | 440% | 8,115 | 12% | 2200 | -73% |
親会社株主に帰属する当期純利益 | 326 | 900 | 176% | 7,088 | 688% | 7,960 | 12% | 2200 | -72% |
引用元:2020年度 連結決算概要, 2021年度 連結決算概要, 2022年度Q2連結決算概要 2023年度(2024年3月期) 第2四半期 決算説明資料
日本郵船ほどではないですが、やはり2020年度の利益は前年度の3倍近く、そしてその2020年度を2021年度は8倍の利益を上げました。お祭り状態と言えるでしょう。
株価も当然上がりますし、配当もどんどん増えます。しかし、2022年度見通しを見てほしいのですが、わかりやすく前年同期比は失速しており、2023年はさらに沈んでいきます。
今後の見通しを予想
上記の通り、わかりやすく日本郵船、商船三井の2022年度以降の成長率は失速しています。
これはシクリカル株であっても、成長株と同様で成長率が頭打ちしている銘柄の株価はどうやっても上昇しません。たしかに売上、利益の絶対値は通常時よりもはるかに高いのですが、株価は絶対値ではなく成長率が重視されます。
成長率は頭打ちすれば、海運株は特に景気が今後は冷え込むことがわかっていますからさらに成長率が下がっていくことがわかっています。
景気敏感株は景気が強くなる初期段階で投資すべきで、それがコロナショック直後でした。10年に一度くらいしかこのようなチャンスは訪れないので、また長らく新たに投資する機会は待つ必要がありそうです。これから買う、という判断には絶対にならないと思います。保有継続という判断も、ひどいことになってしまうと思います。
今後どれくらいの深さの不況になるかは読めませんが、少なくとも現在の株価の半値くらいにはなるのではないでしょうか?それは日本郵船と商船三井の過去の株価が物語っています。
2024年3月末の高配当を受け取るまで粘る投資家が多そうですが、投資とは最後の最後まで利益を得ようとすると、痛い目を見るのが通常です。程々の利益を確実に得られるよう、適切な判断をしていきましょう。
しかし、個別株は難しいですよね。非常にリスクが高く、専業で本腰でやらないと筆者は資産形成に成功しないと思っています。
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その他、筆者が随時まとめているおすすめ投資先も以下にありますので、ぜひ参考にしてみてください。
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