日本にはREITに投資しているファンドが数多く存在しています。
その中でも非常に有名なのが「アセットマネジメントOne」が運用している「新光US-REITオープン」(通称:ゼウス投信)です。
ゼウス投信は名前からわかる通り米国のREITに投資をしている投資信託です。
ゼウス投信は基準価格が運用開始から5分の1程度となり、一見すると大損しているかのように見受けられます。
では、実際のところどうなのでしょうか?
本日はゼウス投信の特徴から運用実績にいたるまで詳しく見ていきたいと思います。
ゼウス投信に投資判断をする上で参考にしていただければと思います。
ゼウス投信の特徴とは?
ではまずゼウス投信の特徴についてお伝えしていきたいと思います。
投資対象は米国リート
ゼウス投信が投資を行っているのは米国リートです。
リートというのは不動産を証券化したものです。
投資家から集めた資金で不動産を購入し、得られた収益の90%以上の投資家に分配することで免税となる仕組みが整えられています。
投資家が免税となるわけではなくREIT法人が免税になるということです。
リートについては以下で詳しくお伝えしています。
→ 〈2023年は危ない?〉長期投資でリート(J-REIT)をおすすめしない理由について解説。買い銘柄はコロナ収束→オリンピック後に出てくる?
米国のリートは株価と同様に堅調に推移しています。以下は米国株全体の動きと、リートの動きの比較ですが殆ど同様のリターンになっています。
青:米国株
赤:米国リート
ただ、後でもお伝えしますが上記は米国リートが分配金をだして税金を回収されなかった場合のリターンになります。
リートは殆どを分配金として拠出するので税金による毀損割合は株式よりも大きくなってしまいます。
実際は分配金を拠出した時に税金が支払われるので上記赤線よりは低いリターンになってしまいます。
コラム:分散目的であればREITとは別の選択肢を考えよう
リーとに投資する人の中には、株式だけでは不安だからという方も多いのではないでしょうか?
しかし、上記でみていただければ分かる通り、先進国において日本でも米国でも基本的に不動産市場と株式市場は同じ動きとなります。
つまり、資産分散となっていないのです。
資産分散を行うのであれば、異なった動きを行う資産をポートフォリオに組み入れることで安全性を増すことができます。
その資産分散をうまく行っているのが米国のハーバード大学やイェール大学といった一流大学が運用する基金です。
→ エンダウメントの投資戦略を参考に長期的に資産を形成しよう!オルタナティブ投資を活用し資産分散を行うメリットについて
彼らはヘッジファンドや金などの商品を食い入れることによって高いリターンを安定して出し続けています。
特に筆者が注目しているのがヘッジファンドです。
ヘッジファンドは筆者もポートフォリオの中核として活用しており、安定して高いリターンを出し続けています。
以下では日本人の個人投資家が投資できるヘッジファンドについてランキング形式で纏めていますので参考にして頂ければと思います。
ゼウス投信の組入銘柄
それでは現在のゼウス投信の組入銘柄についてみていきましょう。以下は前回分析した時からの推移です。
上位銘柄で普遍のものもありますが結構銘柄を入れ替えているのがわかりますね。
2022年12月 | 2022年7月 | |
1 | プロロジス | アメリカンタワー |
2 | クラウン・キャッスル | クラウン・キャッスル |
3 | デジタル・リアルティ | プロロジス |
4 | VICIプロパティーズ | UDR |
5 | アメリカン・タワー | WELLTOWER |
6 | SBAコミュニケーションズ | AVALONBAY |
7 | リアルティ・インカム | INVITATION HOMES |
8 | インビテーション・ホームズ | SIMON Property |
9 | サン・コミュニティー | EQUINIX INC |
10 | ヘルスピーク・コミュニティ | EXTRA SPACE |
銘柄をいわれてもわからないと思うので、セクターの比率の推移をみていきたいと思います。
住居の割合を減らして、医療施設やデータセンターなどを引き上げています。
2022年12月 | 2022年7月 | |
住居 | 19.2% | 24.7% |
インフラ | 17.3% | 18.8% |
産業施設 | 13.2% | 13.2% |
商業・小売 | 12.8% | 11.0% |
医療施設 | 8.9% | 10.3% |
特殊施設 | 8.6% | 6.8% |
データセンター | 7.3% | 5.5% |
貸倉庫 | 5.1% | 4.6% |
オフィス | 5.5 | 2.7% |
森林 | 0% | 2.0% |
ホテルレジャー | 2.2% | 0.4% |
今後の住宅価格の下落を見込んでいることがわかります。
これはFRBによる過激な金利引き上げによってローン金利が高くなり住宅用不動産の価格が下落していることにも起因しています。
今、住宅関連に投資をしているのはリスクが高いということですね。
高い手数料形態
ゼウス投信はアクティブ型の投資信託です。そのため、比較的高い手数料水準となっています。
購入手数料:3.3%(税込)
信託手数料:1.683%(税込)
→ インデックス型投信(=パッシブ)とアクティブ型投資信託はどっちがおすすめ?成績や手数料を中心に金融庁データをもとに徹底比較!
ゼウス投信の運用成績とは?毎月分配が成績を毀損
では肝心のゼウス投信についてみていきましょう。
税引前分配金を再投資したベースでの基準価格は堅調
以下はゼウス投信の運用が開始された2004年9月からのリターンの推移です。(2022年12月の月次レポート)
赤色の基準価格は一貫して下落しており現在は2004年の基準価格10,000円から5分の1程度の2,000円近辺で推移しています。
ただ、青色の税引前の分配金再投資したベースの基準価格は2004年から2.5倍になっています。しかし、あくまで税引前という点が重要になってきます。
毎月分配金の罠とは?高い分配利回りは複利効果を毀損する
2021年1末時点でのゼウス投信の基準価格は約1800円ですが、毎月の分配金は25円(年間300円)となります。
つまり、現時点で年間分配利回りは約17%という高い水準になっています。
ただ、高い分配金をだすことは複利効果を毀損する結果となります。
わかりやすく年利10%稼ぐ資産が配当を出した場合と、配当を出さなかった場合の比較で考えて見ましょう。
投資資金はわかりやすく100万円として税率は20%とします。(本来投資に関する税率は20.315%ですが単純化します。)
分配金なし | 分配金あり | ||
基準価格 | 税後分配金 | ||
現在 | 100 | 100 | |
1年目 | 110 | 100 | 8 |
2年目 | 121 | 100 | 8 |
3年目 | 133 | 100 | 8 |
4年目 | 146 | 100 | 8 |
5年目 | 161 | 100 | 8 |
6年目 | 177 | 100 | 8 |
7年目 | 195 | 100 | 8 |
8年目 | 214 | 100 | 8 |
9年目 | 236 | 100 | 8 |
10年目 | 259 | 100 | 8 |
税後 最終リターン |
227 | 180 |
同じリターンをだしていたとしても配当金を出していない方が最終的により大きな資産を構築することができるのです。
元本から支払われる特別分配金に気をつけよう
米国リートの長年の平均リターンは7%-8%です。にも関わらずゼウス投信は17%もの分配金を拠出しています。
つまり運用リターンからだけでなく、元本からも分配金を拠出しているということになります。結果として基準価格が減少の一途を辿っているのです。
特別分配金に関しては元本から支払われているので税金は発生しません。しかし、冷静に考えてみてください。
高い手数料を払って預け入れた元本から分配金が支払われているのです。
つまり、ただ手数料を払って預金からお金を引き出しているという結果になっているのです。
馬鹿げていますよね。金融機関に手数料を支払うために投資をしているという結果になっているのが特別分配金なのです。
基準価格が下がっている毎月分配型投資信託には注意を据える必要があります。
そもそも配当金は下がり続けている
現在のゼウスの配当金は毎月25円、年間で300円となります。
現在の基準価額2200円ベースでみると分配利回りは13%ということになります。
しかし、最初の基準価額10,000円ベースで考えると現時点の平均利回りは3%となります。
つまり投資した金額ベースでは配当利回りは決して高くないのです。長期投資をしていれば、どんどんと分配利回りは低くなるのです。
元本から支払われる特別分配金がだされているので、どんどん基準価額も下落して配当金は削られていきます。
保有していればいるほどジリ貧になっていくのです。
まだ、米国リートが優秀であればリターンもでるのでよいのですが、米国リートが下落すると悲惨なことになります。
配当金の全額が特別分配金となるためです。そして、ここから米国リートが下落する確度が高くなっています。(以下で説明します)
そもそも米国リートと比べて成績は優れているのか?
では、そもそもゼウス投信が他のUSリートの指数や投信に比べて優れているのでしょうか?
S&P米国REITインデックス(配当込み、円換算ベース)に連動を目指すeMAXIS 米国リートと比較をしてみましょう。
同投資信託は配当金を出さない性格の投信ですので、ゼウス投信の税引前配当金再投資後の成績と比較します。
ゼウス投信 | eMAXIS米国リート | |
1ヶ月 | -4.3% | 3.7% |
3ヶ月 | -4.7% | 14.5% |
半年 | -4.7% | 9.1% |
1年 | -16.6% | -13.3% |
3年 | -4.0% | 9.7% |
5年 | -0.8% | 5.5% |
全ての期間でゼウス投信は米国のリートインデックスに劣った成績ということになりますね。
インデックスに対してプラスのリターンを狙うアクティブ型の投資信託としては面目丸潰れということになります。
さらにここから配当金を出しているため、リターンが毀損しているのですから投資する価値は非常に低いといえます。
みかけの分配利回りに目を取られて投資判断を誤らない方がよいでしょう。
USリートは今後どこまで下がる?
ゼウス投信はUSリートに投資をしているので、USリートの見通しが今後のゼウス投信の趨勢を占うこととなります。
以下はeMAXIS米国リートインデックスの直近1年の基準価額の推移ですが、4月の最高値から大幅に下落しています。
その後、持ち直していますがジャクソンホール会議でパウエル議長がタカ派的な姿勢をしめしたことで再び下落に転じています。
しかし、これはまだまだ序盤です。
この理由は単純に米国の中央銀行がインフレに対処するために急速に引き締めを行なって金利をあげているからです。
実際米国の30年の固定金利のレートは6%近い水準に上昇しています。
金利が上昇すれば高い金額の不動産は購入できなくなります。つまり金利が上昇する局面では不動産価格は下落するのが基本となっています。
現在、米国のインフレ率は8%超えと40年ぶりの水準になっています。
まだまだインフレ率が下落する気配はなく金利はしばらく現在または現在以上の水準になることが見込まれます。
この金利水準だとローンが払えずに売りに出す人が続出します。
今後も継続的に米国の不動産市場は下落していくことが見込まれます。現在の米国リートの投資妙味は低いといえるでしょう。
まとめ
今回のポイントを纏めると以下となります。
- ゼウス投信の投資対象は米国リート
- 業種はバランスよく配分している
- 非常に分配金で複利を毀損している
- 特別分配金を出し基準価格は下落の一途をたどっている
- 米国リートインデックスを大幅に下回るリターンとなっている